個人事業主として小規模企業共済に入って、コツコツ掛金を積んできた。事業が伸びて、いよいよ法人成り——。
このとき、多くの人が見落とす分かれ道があります。
法人成りのときの共済の扱いを間違えると、積み上げた掛金が元本割れで戻ってくることがあります。
しかも、正しく扱えば掛金の納付月数をそのまま引き継げる。この差は、金額にして数十万円になることもあります。法人成りを考え始めたら、真っ先に確認すべき論点です。
なぜ「法人成り」が共済で問題になるのか
小規模企業共済は、そもそも「事業をやめるとき」に最大の力を発揮する設計です。そして共済のルール上、個人事業の廃業は共済金の請求事由にあたります。
法人成りは、税務的には「個人事業を廃止して、法人を新しく作る」手続きです。つまり、放っておくと「個人事業の廃業=共済契約の区切り」として扱われかねない。ここが問題の出発点です。
でも安心してください。法人成りのひとり社長には、有利な道が用意されています。
道は3つ。うち1つは「絶対に避ける」
法人成りのとき、共済の扱いは大きく3通りです。
| 選択 | 何が起きるか | 評価 |
|---|---|---|
| A. 契約を継続する | 法人の役員として掛金月数を通算して積み続ける | ◎ 基本はこれ |
| B. 準共済金として受け取る | 法人成りを機に一度精算。元本割れしない受取 | ○ 状況次第 |
| C. 任意解約する | 解約手当金。240か月未満なら元本割れ | ✕ 避ける |
順に見ます。
A. 契約を継続する(掛金月数を通算)
法人成りしても、あなたが引き続き加入資格(常時使用する従業員が20人以下、商業・サービス業なら5人以下の会社役員)を満たすなら、契約をそのまま続けられます。
ひとり社長(従業員0人の役員)は、まず問題なく加入資格を満たします。この場合、個人事業主時代に積んだ掛金納付月数がリセットされず、そのまま通算されます。
これが効くのは、240か月(20年)未満の任意解約は元本割れという制度だからです。通算できれば、その「20年」のカウントを引き継げる。ゼロからやり直す必要がありません。
継続には中小機構への手続きが必要です。法人成りしたら自動で引き継がれるわけではありません。掛金の引き落としや契約者情報の扱いも含め、事前に中小機構へ確認してください。
なお、掛金は法人成り後も「役員個人」が払い、個人の所得控除である点は変わりません(会社の経費ではない。基礎記事の解説参照)。
B. 準共済金として受け取る
法人成りを機に、いったん受け取って精算する道もあります。このとき受け取るのは、任意解約の「解約手当金」ではなく 「準共済金」 という別区分です。
準共済金の重要な特徴——
- 掛金合計額を下回らない(=任意解約と違い、納付月数が短くても元本割れしない)
- 一括受取なら退職所得扱い(退職所得控除が使える有利な区分)
「まとまった額を法人の元手にしたい」「一度リセットして受け取りたい」場合の選択肢になります。ただし受け取れば当然、そこで積立はいったん終わります。継続(A)と受取(B)のどちらが得かは、年齢・所得・今後の積立意向で変わる税理士の領域です。
C. 任意解約(これは避ける)
いちばんやってはいけないのが、法人成りの手続きに紛れて、あるいは知らずに任意解約してしまうことです。
任意解約の解約手当金は、240か月未満だと掛金合計を下回ります(おおむね8〜9割台)。法人成りという正当な事由があれば準共済金(元本割れなし)で受け取れるのに、任意解約にしてしまうと、みすみす元本割れの区分を選ぶことになります。
法人成りなのに任意解約——これが最大の損失パターンです。
手続きの「順番とタイミング」に注意
厄介なのは、法人成りでは複数の手続きが同時並行で走ることです。
- 個人事業の廃業届
- 法人の設立・各種届出(設立から5日以内のものもある)
- 共済契約の継続 or 受取の手続き
このなかで共済の扱いは後回しにされがちですが、廃業届と共済の手続きのタイミングがずれると、意図しない区分で処理されるおそれがあります。
法人成りを決めたら、登記や税務署の手続きと"同時に"、共済をどうするかを決めて中小機構に相談する。 これが鉄則です。多くの人が、法人成りが一段落してから共済を思い出す——その順番だと選択肢が狭まることがあります。
法人成りで変わる、共済まわりのもう一つの話
法人成りすると厚生年金の第2号被保険者になり、iDeCoの掛金上限が月6.8万円→2.3万円へ(2026年12月の改正前)と大きく縮みます。一方で小規模企業共済の月7万円枠は、法人役員でも個人事業主でも変わりません。
つまり法人のひとり社長にとっては、相対的に小規模企業共済の枠のほうが大きくなります。法人成りは、老後資金の積み方のバランスまで変える——この視点は小規模企業共済とiDeCoで詳しく扱っています。
まとめ
- 法人成りは税務上「個人事業の廃業」。放置すると共済の区切りとして扱われかねない
- 基本は A. 契約を継続(役員として加入資格を満たせば掛金月数を通算)。中小機構への手続きが必要
- 受け取るなら B. 準共済金(元本割れしない・退職所得扱い)。A/Bの損得は税理士へ
- C. 任意解約は避ける(240か月未満は元本割れ。準共済金という有利な区分があるのに損)
- 登記・税務の手続きと同時に共済の扱いを決めて相談する。後回しにしない
- 法人成りでiDeCo枠は縮むが、共済の7万円枠は不変——相対的に共済が効く
法人成りそのものの判断軸は#1 個人事業主とマイクロ法人、どっちで始める?、共済の基礎は小規模企業共済とは、全体像はひとり社長が使える国の制度へ。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務・共済手続きの助言ではありません。共済金の区分・要件・税制・掛金上限は変更されることがあり、法人成り時の取扱いは加入資格や手続きのタイミングによって変わります。必ず一次情報(中小機構 小規模企業共済)で確認し、法人成りの具体的な進め方や共済の扱いは税理士等の専門家にご相談ください。当サイトは申請書類の作成代行は行いません。