補助金は「もらう」制度です。その隣に、「官公庁の仕事を受注して稼ぐ」という道があります。役所のホームページ制作、調査業務、台帳作成——たしかに公告は毎日出ています。
では、従業員0人のひとり社長に、それは取れるのか。
調べました。官公需情報ポータルサイトの公式APIから、直近30日の役務公告104件を集めて全数判定しています。
結果:手が届いたのは104件中3件
まず全体の判定結果です。判定基準は「制度上、参加できるか」——実務的に大変そうという理由では落としていません(当サイトが補助金を判定するときと同じ原則です)。
| 判定 | 件数 |
|---|---|
| 無条件で参加できる | 1件 |
| 条件付き | 78件 |
| ひとりでは構造的に無理 | 25件 |
一見すると「条件付き78件」が希望に見えます。ですが、この78件の中身が答えでした。
| 条件の内訳(重複あり) | 件数 |
|---|---|
| 実績要件 | 48件(61%) |
| 公告文から判断できない | 30件 |
| 地域(市内営業所・常駐) | 26件 |
| 等級・格付 | 14件 |
| 複数名の配置 | 14件 |
| 認証(ISMS・Pマーク等) | 10件 |
「条件が名簿登載と地域要件だけ」のものを厳しく数え直すと、3件でした。
手が届く案件:3/104 = 2.9%
本当の壁は「小さいこと」ではなく「実績」だった
ここがこの調査でいちばんはっきりしたことです。
ひとり社長が入札で不利なのは「規模が小さいから」だと思われがちですが、公告の原文を読むと、規模そのものを理由に排除している制度はほとんどありません。壁になっていたのは実績要件です。
発注した海外からの招へい者又は要人の随行・接遇業務(添乗及び多言語ガイド業務を含む)を伴う、概ね30名以上の団体受入業務を完了した実績を2件以上有している者であること
これは閉じた輪です。勝たないと実績が付かず、実績がないと勝てない。 補助金の「conditional(条件付き)」は準備すれば手が届くものが多いのですが、入札の実績要件は質が違います。
一方、「等級」は壁ではなかった
条件の中に「等級・格付」が14件ありました。これは一見すると規模による排除に見えます。ですが一次資料を読むと、逆でした。
全省庁統一資格の役務の提供等の等級は、予定価格で分かれています(経済産業省・令和7・8・9年度)。
| 等級 | 予定価格 |
|---|---|
| A | 3千万円以上 |
| B | 1千5百万円以上3千万円未満 |
| C | 3百万円以上1千5百万円未満 |
| D | 3百万円未満 |
つまり等級は「大きい会社だけ通す門」ではなく、案件の規模と事業者の規模を突き合わせる仕組みです。ひとり社長はD等級を取り、3百万円未満の案件を狙う。これは排除ではなく、住み分けの設計です。
等級が壁になるのは「A又はB等級の者」と指定された大きい案件を狙ったときだけでした。
名簿登載は98%で必要。でも一度きり
104件のうち102件(98%)が、入札参加資格者名簿への登載を求めていました。ほぼ全部です。
ただしこれは一度やれば済む手続きです。国の仕事なら全省庁統一資格(統一資格審査申請・調達情報検索サイトから申請)、自治体の仕事ならその自治体の名簿。
この構造は、補助金におけるgBizIDプライムとまったく同じです。入口に手続きがあるが、越えれば以後ずっと効く。毎回の障害ではありません。
ひとりでは無理な25件は、何が無理だったのか
構造的に不可と判定した25件は、原文を読むと理由がはっきりしていました。
業務責任者、業務担当者(主任)、業務担当者(副任)の計3名以上の配置が義務
直接雇用している者を主任技術者として配置すること
管理技術者は文書情報管理士(上級)の資格を有し、鹿児島県内に在住又は常駐する者であって、連続して3月以上の直接的な雇用関係にあるものを配置できること
パターンは3つです。
- 複数名の配置義務 — 一人では頭数が足りない
- 直接雇用の技術者の配置 — 「雇用関係にある者を配置せよ」=自分自身では要件を満たせない
- 業法上の許認可 — 貨物自動車運送事業(運行管理者)、警備業、計量証明事業(MLAP認定)など
2番目は、ひとり社長のリスキリングで見たのと同じ構造です。制度が「雇う側と雇われる側が別々にいること」を前提にしていて、その両方を兼ねているひとり社長が想定外になっています。
それでも取れた3件に共通するもの
手が届いた3件を見ると、狙うべき型が見えます。
① 兵庫県加東市「かとう学」デジタル版作成業務委託 — 公告に「地域要件なし」と明記され、実績・等級・人員の要件もありません。市の入札参加資格者名簿に「コンピューター関連・ソフト開発情報処理等」で登録していれば参加できます。この104件で唯一の、完全に開かれた案件でした。
② 熊本県熊本市 風致地区看板台帳作成等業務委託 — 市の名簿に「調査業務」「都市計画関係調査」の業種で登録が必要。市内営業所の要件はありますが、業務自体は一人で完結します。
③ 静岡県磐田市 特定建築物定期報告業務委託 — 名簿への「建築関係建設コンサルタント業務」の認定が必要。つまり専門資格を持つひとり社長なら手が届きます。誰でもではありません。
共通するのは、一人で完結する成果物(デジタル化・台帳作成・調査)で、地元自治体の、小さい案件であることです。
大きい国の案件を正面から狙うのではなく、自分の市区町村の名簿に登録して、一人で終わる仕事を待つ。これがひとり社長にとって現実的な入り方でした。
この調査の限界(正直に書きます)
数字を出した以上、どう作ったかも書きます。
- 標本は意図的に有利側に寄せています。 工事や物品を除いた役務カテゴリのみ、さらに「ホームページ」「デザイン」「調査」「翻訳」などひとり社長が届きうる8つの語で抽出しました。母集団全体で測れば、2.9%より下がります
- 判定はAIが公告文の冒頭6,000字を読んだものです。公告の長さは中央値9,858字なので、後半に書かれた条件を見落とした可能性があります。ただし見落とすと「判断できない」に倒れる=手が届く側を過小に数える方向なので、2.9%が過大ということはありません
- 「手が届く3件」と「無理な25件」は、公告の原文を人間が読み直しています。 AIが最初に6件を「手が届く」と判定しましたが、原文を読むと3件には追加要件(複数の専門資格、第一種旅行業者登録、建設コンサルタント認定)があり、除外しました
- 104件のうち6件は、単一の公告ではなく発注情報の一覧ページでした(最大19MB)。除いても分布はほとんど変わりません(条件付き72/無理24/可1)
まとめ
| 手が届く案件 | 2.9%(104件中3件) |
| 最大の壁 | 実績要件(条件付き78件の61%) |
| 壁ではないもの | 等級(規模のマッチング)、名簿登載(一度きり) |
| 構造的に無理 | 複数名の配置義務、直接雇用の技術者、業法の許認可 |
| 現実的な狙い方 | 地元自治体 × 一人で完結する成果物 × 小額案件 |
入札を「もう一つの収入源」として期待するなら、月に0〜1件しか自分向けの案件は出ないという前提で考えるのが正確です(今回の調査でも、半数の案件に地域要件がありました)。
補助金のほうは、当サイトが判定している募集中の制度のうち272件がひとり社長を対象にしています。まずはこちらから当たるほうが、確率は高いはずです。
よくある質問
ひとり社長でも入札参加資格は取れますか?
取れます。全省庁統一資格には予定価格に応じたA〜Dの等級があり、D等級は予定価格3百万円未満の案件が対象です。規模が小さいことを理由に資格そのものが取れないわけではありません。自治体の入札についても、その自治体の入札参加資格者名簿への登載申請が入口になります。
実績がなくても入札に参加できますか?
参加できる案件はありますが、多くありません。今回調べた104件では、条件付き78件のうち61%が同種業務の実績要件を課していました。実績を求めていない案件を選ぶことが現実的な入り方です。
なぜ「手が届く」案件がこんなに少ないのですか?
多くの公告が複数名の配置や直接雇用の技術者を求めているためです。制度が「事業主と従業員が別にいること」を前提に設計されているので、その両方を兼ねるひとり社長は要件を満たせません。規模が小さいこと自体が理由ではありません。
補助金と入札、どちらを狙うべきですか?
一般論として、ひとり社長には補助金のほうが確率が高いといえます。今回の調査では手が届く公告は2.9%でしたが、当サイトが判定している募集中の補助金では272件がひとり社長を対象としています。ただし補助金は後払いで立替が必要なのに対し、入札は役務の対価なので、資金繰りの性質は異なります。
免責と一次ソース
この記事は公告文とAIによる判定をもとにした調査です。個別の案件に参加できるかどうかは、必ず各発注機関の公告原文と入札参加資格の要件でご確認ください。 当サイトは入札の代行・申請支援は行いません。
調査には官公需情報ポータルサイトの検索APIを利用しています。
調査対象は2026年7月14日〜8月13日に公告された役務カテゴリのうち、8つの検索語で抽出した104件です(2026年8月13日時点)。